『夕暮れどきのシャボン玉』
ある明け方、星が空から落ちてしまい、どうしたら空へ戻れるか、池の淵にかがんで魚に相談をしていました。
でも魚は水の中に潜っていて、もう少し寝たいと思っている最中だったので、水の上の星の声はくぐもって魚にはよく聞こえませんでした。
そこへ、ねずみがちょろちょろと、朝の散歩で通りかかりました。
星は「ネズミサン、ネズミサン」と、高いような、低いような声で繰り返しながら、ねずみのあとを追いかけました。ねずみは突然、いつもは空にいるはずの星に呼びかけられ、少し怖くもあり、一度も後ろを振り向かないまままっすぐに家に着きました。
そして、家の奥の暗がりにいる石鹸に「星がついてきた、どうしよう」と伝えました。石鹸は、ねずみが生まれるずっと前からこの家に住んでいる色々なことを知っている石鹸です。石鹸は体をひょいと伸ばして、ねずみの背後の玄関に立っている星を見ました。
ねずみのこちら側と向こう側とで、石鹸と星は、お互いを見つめ合いました。
するとパッと一緒に明るい顔をして、「やあ、どこかでお逢いした星だ、また逢いましたね」「ミオボエノアルセッケンサンダ」と家の中が急に明るくなりました。ねずみも「わぁ〜」っと晴れやかな気持ちになり、張り切ってお茶を出したり、石鹸と星の昔話を聞いたりして、とても楽しく過ごしました。
石鹸と星はいつどこで逢ったことがあるのか、それはどちらも思い出せないままでしたが夕方頃になり、星が「ソロソロ」と名残惜しそうに立ち上がりました。石鹸もねずみももっといてほしい気持ちは同じでしたが、石鹸はねずみに小川のきれいな水を汲んできてもらい、その中にチャポンと飛び込み行ったり来たりを繰り返し、シャボンの液を作りました。
近所のとりがストローを1本くれました。シャボン玉を優しく吹いてくれたのはうしです。
星はねずみや石鹸やとりやうしにお礼を言って、仲間の星が輝き始めた夕暮れの空へうれしそうに帰って行きました。
新しい年が明けました。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
長年お世話になっているツクイさんが、昨年10月からツクイホールディングスさんに社名を変更され、今年もまた年賀状とカレンダーを描かせていただきました。
壁に掛けたカレンダーを昨年12月のものから今年のものに掛け替えて、部屋が新年の気分になりました。1月は七転び八起きをしているだるまや、だるま落としなど、“だるま”と、“お正月の雰囲気”がテーマになっています。毎年、ツクイさんのご担当の方から各月の絵のテーマとなるキーワードを出していただき、それを膨らませて絵の内容を一緒に決めています。昨年はなかなかお逢いすることができない中での進行となりましたが、ツクイさんの楽しいアイディアの数々のおかげで明るいものが出来ました。本当にどうもありがとうございました。
落ち着いた、穏やかな気分で静かに過ごすことができる1年になりますように。
丑年のうしさん
年賀状
壁掛けカレンダー
卓上カレンダーの年齢早見表
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
長年お世話になっているツクイさんが、昨年10月からツクイホールディングスさんに社名を変更され、今年もまた年賀状とカレンダーを描かせていただきました。
壁に掛けたカレンダーを昨年12月のものから今年のものに掛け替えて、部屋が新年の気分になりました。1月は七転び八起きをしているだるまや、だるま落としなど、“だるま”と、“お正月の雰囲気”がテーマになっています。毎年、ツクイさんのご担当の方から各月の絵のテーマとなるキーワードを出していただき、それを膨らませて絵の内容を一緒に決めています。昨年はなかなかお逢いすることができない中での進行となりましたが、ツクイさんの楽しいアイディアの数々のおかげで明るいものが出来ました。本当にどうもありがとうございました。
落ち着いた、穏やかな気分で静かに過ごすことができる1年になりますように。
丑年のうしさん
年賀状
壁掛けカレンダー
卓上カレンダーの年齢早見表
『キンダーブックじゅにあ9月号(フレーベル館)』に「ついてきて おつきさま(文・たかてらかよ先生)」を再掲していただきました。ペペとポポという何の動物かわからないお二人さんが、うさぎやたぬきたちと一緒にお月見をするお話です。
カレンダーを捲ると、今年の十五夜は10月1日。ペペとポポと一緒に、私ものんびりとお月見をしたいなぁ〜
カレンダーを捲ると、今年の十五夜は10月1日。ペペとポポと一緒に、私ものんびりとお月見をしたいなぁ〜
トコハッピーちゃんの、うがいや手洗いバージョンのイラストです。
https://www.tokoha.ac.jp/fuzoku/20180620_8437
かわいい付箋も作っていただきました。小学校の先生が、できあがった付箋の写真を撮って送ってくださいました。先生の机の雰囲気が懐かしい。(私が通った小学校ではないけれど)
実際のお店には行ったことがないのですが、通販で画材を買った神奈川県大和市にある画材屋さんの包装紙。「L」が使いかけの絵の具のチューブになっていて、なんとなく、良いな、と思いました。白いロゴマークが、茶色い紙の上で、大・中・小・小・小・小・・・ +漢字。小の並び方が、なんとなく「L」型。
https://www.tokoha.ac.jp/fuzoku/20180620_8437
かわいい付箋も作っていただきました。小学校の先生が、できあがった付箋の写真を撮って送ってくださいました。先生の机の雰囲気が懐かしい。(私が通った小学校ではないけれど)
実際のお店には行ったことがないのですが、通販で画材を買った神奈川県大和市にある画材屋さんの包装紙。「L」が使いかけの絵の具のチューブになっていて、なんとなく、良いな、と思いました。白いロゴマークが、茶色い紙の上で、大・中・小・小・小・小・・・ +漢字。小の並び方が、なんとなく「L」型。
2011年の8月に、PHP研究所から出版された本が、中国語に翻訳されて出版されました。
著者は産婦人科医の池川明先生、日本語のタイトルは『お母さん、おなかの中でも見ているよ』です。
日本語のときには表紙もイラストでしたが、中国語版では赤ちゃんの写真になりました。この赤ちゃんは中国の赤ちゃんなのかな?赤ちゃんのときは、特に目を閉じている赤ちゃんは、どの子も同じように穏やかなお顔をしていて、性別も、国籍も、あまりわかりませんね。
日本語のときと同じように、中国語版でも挿し絵を数点載せていただきました。
著者は産婦人科医の池川明先生、日本語のタイトルは『お母さん、おなかの中でも見ているよ』です。
日本語のときには表紙もイラストでしたが、中国語版では赤ちゃんの写真になりました。この赤ちゃんは中国の赤ちゃんなのかな?赤ちゃんのときは、特に目を閉じている赤ちゃんは、どの子も同じように穏やかなお顔をしていて、性別も、国籍も、あまりわかりませんね。
日本語のときと同じように、中国語版でも挿し絵を数点載せていただきました。
2月に表参道のピンポイントギャラリーで開かれた100人展『日本百景展』で展示していただいた絵です。テーマは、“日本のどこかの いつかの 風景”で、夏の縁日の絵を描きました。(手元に戻ってきたあと、なんとなく物足りないように感じたので少し描き足しました。)
『縁日』
1
ある夏の夕暮れ時、太郎とおじいさんは二人で近くの縁日へ行きました。
神社の鳥居をくぐるときおじいさんが言いました。
「タロベエ、もしもはぐれちゃったら、土俵の横の大きな木の下に行くんだよ。そこで落ち合おうな」
神社の奥まった一角には子どもの相撲クラブの子たちが練習に使っている、古い、しっかりとした相撲場がありました。その相撲場の向こうには大きなクスノキの木が1本立っていました。今日は縁日なので相撲クラブはお休みで、お相撲場の周りには夜店も出ないので、そこは静かな一角となっていました。
2
太郎は金魚すくいに見とれていました。
ふと気が付くと、おじいさんの姿がありません。ランプに照らされているたくさんの顔はみんな知らない顔でした。太郎ははきょろきょろとせわしなく目を動かしながら、間を縫って、間を縫って、おじいさんと約束をした相撲場の方へ急ぎました。
3
真っ暗です。まだおじいさんはいないみたい。土俵がいつもより大きく見えました。
(あれっ。土俵の脇のベンチに誰かいる)
太郎はさっと身をかがめて、土俵の陰に隠れました。
(誰だろう?)
太郎がそっと顔を覗かせたそのとき、ポン!と気持ちの良い音を立てて、こだぬきがラムネの栓を抜きました。
4
ふわぁーっと青いけむりが広がりました。
(こぎつねとこだぬきだ)
さっき欲しいと思いながら欲しいと言えなかったりんご飴やかざぐるまやいろいろなきれいなものが、青いけむりと共に夜風に舞っていきました。太郎は初めて見る不思議な魔術を見ているような気持ちで上っていくけむりを目で追いました。
5
「タロベエ」
ふいに後ろから声がしました。振り返ると、暗闇の中からおじいさんが現れました。
「大丈夫かい。ちゃんと来られてえらかったな」
太郎が前を指差すと、もうそこには、こぎつねもこだぬきもいませんでした。驚いて目をぱちくりさせながら立ち上がって夜空を見上げると、あっ!暗闇の中を金魚がゆらゆらと揺れながら泳いで行くのが見えました。金魚は遊んでいるようでした。
「何か買ってあげるよ」
おじいさんが言いました。太郎はラムネを1本買ってもらいました。自分で開けたいとも思ったけど、瓶の栓はお店の人が慣れた手付きで開けました。飲むとき、こぎつねとこだぬきが、どこかで見ているような気がしました。
(おしまい)
『縁日』
1
ある夏の夕暮れ時、太郎とおじいさんは二人で近くの縁日へ行きました。
神社の鳥居をくぐるときおじいさんが言いました。
「タロベエ、もしもはぐれちゃったら、土俵の横の大きな木の下に行くんだよ。そこで落ち合おうな」
神社の奥まった一角には子どもの相撲クラブの子たちが練習に使っている、古い、しっかりとした相撲場がありました。その相撲場の向こうには大きなクスノキの木が1本立っていました。今日は縁日なので相撲クラブはお休みで、お相撲場の周りには夜店も出ないので、そこは静かな一角となっていました。
2
太郎は金魚すくいに見とれていました。
ふと気が付くと、おじいさんの姿がありません。ランプに照らされているたくさんの顔はみんな知らない顔でした。太郎ははきょろきょろとせわしなく目を動かしながら、間を縫って、間を縫って、おじいさんと約束をした相撲場の方へ急ぎました。
3
真っ暗です。まだおじいさんはいないみたい。土俵がいつもより大きく見えました。
(あれっ。土俵の脇のベンチに誰かいる)
太郎はさっと身をかがめて、土俵の陰に隠れました。
(誰だろう?)
太郎がそっと顔を覗かせたそのとき、ポン!と気持ちの良い音を立てて、こだぬきがラムネの栓を抜きました。
4
ふわぁーっと青いけむりが広がりました。
(こぎつねとこだぬきだ)
さっき欲しいと思いながら欲しいと言えなかったりんご飴やかざぐるまやいろいろなきれいなものが、青いけむりと共に夜風に舞っていきました。太郎は初めて見る不思議な魔術を見ているような気持ちで上っていくけむりを目で追いました。
5
「タロベエ」
ふいに後ろから声がしました。振り返ると、暗闇の中からおじいさんが現れました。
「大丈夫かい。ちゃんと来られてえらかったな」
太郎が前を指差すと、もうそこには、こぎつねもこだぬきもいませんでした。驚いて目をぱちくりさせながら立ち上がって夜空を見上げると、あっ!暗闇の中を金魚がゆらゆらと揺れながら泳いで行くのが見えました。金魚は遊んでいるようでした。
「何か買ってあげるよ」
おじいさんが言いました。太郎はラムネを1本買ってもらいました。自分で開けたいとも思ったけど、瓶の栓はお店の人が慣れた手付きで開けました。飲むとき、こぎつねとこだぬきが、どこかで見ているような気がしました。
(おしまい)
来週から、表参道のピンポイントギャラリーで開かれる100人展に、私も1点展示させていただきます。
『日本百景展』
2月10日(月)〜22日(土)
12時〜19時 土曜17時まで 日曜お休み
*2/10初日月曜のみ14時〜19時
https://pinpointgallery.com
ピンポイントギャラリーは昨年、場所が移転しましたので、ご注意くださいませ。
私は夏の夜、きつねとたぬきが縁日に行っている絵を描かせていただきました。
100人展が終わったらアップします。
ギャラリーの方が作ってくださった告知の画像です。↓
『日本百景展』
2月10日(月)〜22日(土)
12時〜19時 土曜17時まで 日曜お休み
*2/10初日月曜のみ14時〜19時
https://pinpointgallery.com
ピンポイントギャラリーは昨年、場所が移転しましたので、ご注意くださいませ。
私は夏の夜、きつねとたぬきが縁日に行っている絵を描かせていただきました。
100人展が終わったらアップします。
ギャラリーの方が作ってくださった告知の画像です。↓
1月の始めに、なんとなく思い浮かんだことを、このブログにアップしようとしたのですが、サーバーに何か不具合が生じたようで、しばらく表示されなくなっていました。
まあいいや、と思って忘れていたのですが、思い出してブログを開いてみたらありがたいことに復活しているようなので、書こうと思います。
☆☆☆☆
『鈴』
1
大晦日の夜、りんたくんは、リュックサックに付けていたとてもきれいな音がする鈴を、どこかで落としてしまったことに気がつきました。
その日はお餅屋さんのおじいさんと一緒に、町の端から端までつき立てのお餅をたくさんお届けして回ったので、その鈴をどこで落としてしまったのか、考えてみてももう見当がつきません。
背中でいつも、リンリン、と透き通った音を立てる鈴。
夜眠る前に、ふとリュックサックに入れたままにしていた昼間のごみを取り出そうとして、鈴がなくなっていることに気がついたのでした。おじいさんと出かけるときには、ちゃんと鈴は鳴っていたのに。リュックサックにひょろりと1本残されたひもを見つめながら、ごみを捨てて昼間のことを思い返していると、時計のハトが寝る時間を知らせたので、仕方なく、とてもがっかりした気持ちのままお布団に潜り込みました。
「こんなに外は寒いのに、鈴はどこに落ちているんだろう」
2
翌日はお正月です。
目が覚めて始めに鈴のことが思い浮かびました。
あーあ、と思いながら布団から出ると、窓の外の方でハト時計のハトが、ホッホーと鳴いている声が聞こえてきました。このハト時計はりんたくんがもっと小さい頃、遠くで仕事をしているお父さんがお土産に買ってきてくれたかわいらしい時計でした。不思議に思って窓を開けると、時計から抜け出したハトが、外の木に止まってホッホーと鳴いています。「りんたくん、空の方を見てごらん」と言っているような気がしました。
3
りんたくんは空を見上げました。
すると、お正月の新しい空の中を、一艘のふねが、どこからかゆっくりと流れてきました。
ね ね ね ね ね ね ね
ねずみが7匹乗っています。ふねの名前はねどし丸です。
りんたくんはびっくりして玄関へ走り、水色の靴を引っ掛けて急いで外へ出てみました。
4
空を流れるねどし丸。
ふねの上ではねずみたちが掛け声を掛けてふねを進めています。
ふねを漕いでいる4匹のねずみが、北の空にひとつ浮かんでいる雲を見て呟きました。
「おや?今あの雲の中で、何かがちかっと光ったねぇ」
「うん、光った光った」
先頭のねずみが望遠鏡を覗きました。
「あっ。雲に、鈴が引っかかっているよ」
そのとき、りんたくんの周りを風が通り抜けました。
雲も揺れ、リンと音が響きました。
「行ってみよう」
ねどし丸のねずみたちは、流れる雲を目指してふねを漕いで行きました。
5
りんたくんは思いました。
「ぼくが落とした鈴の音だ。昨日か今日、誰かが拾って雲の上に置いてくれたんだ」
ふねは雲に追いつきました。
たもを持ったねずみがそっと、雲の中から落ちないように上手に鈴をすくい上げ、ちりんとふねに乗せました。その鈴はとてもきれいな音がしたので、ねずみたちは代わる代わる鈴を鳴らしたがりました。
そして、鈴をふねにつけました。
お正月の空の中、透き通った音が聞こえます。りんたくんは「ねずみさん」と呼んでみようかと思いましたが、あんなに高いところを飛んでいるふねからはとてもぼくのことは見えない、と思って黙っていました。でも、大事な鈴をねずみが拾ってくれて、ふねにつけてくれて、うれしいと思いました。ふねはだんだん、遠くの空へ小さく消えていきました。
6
部屋の中からハト時計のハトの声が聞こえてきます。
りんたくんが急いでお部屋へ戻ってみると、いつの間にかハトはいつものハト時計に戻り、ちょうど朝の時間を知らせてくれているところでした。8時です。
もしかしたら、さっきの鈴も戻っているのかもしれないと思いリュックサックをよく見ましたが、やはり鈴はなくなったままでした。
お餅の匂いがしてきました。おじいさんはもう起きています。リュックサックには残されたひもだけになってしまったけれど、ひもだけ、このままつけておこうとりんたくんは思いました。またねずみがやってきて、空から鈴を鳴らしてくれるような気がしました。
(おしまい)
まあいいや、と思って忘れていたのですが、思い出してブログを開いてみたらありがたいことに復活しているようなので、書こうと思います。
☆☆☆☆
『鈴』
1
大晦日の夜、りんたくんは、リュックサックに付けていたとてもきれいな音がする鈴を、どこかで落としてしまったことに気がつきました。
その日はお餅屋さんのおじいさんと一緒に、町の端から端までつき立てのお餅をたくさんお届けして回ったので、その鈴をどこで落としてしまったのか、考えてみてももう見当がつきません。
背中でいつも、リンリン、と透き通った音を立てる鈴。
夜眠る前に、ふとリュックサックに入れたままにしていた昼間のごみを取り出そうとして、鈴がなくなっていることに気がついたのでした。おじいさんと出かけるときには、ちゃんと鈴は鳴っていたのに。リュックサックにひょろりと1本残されたひもを見つめながら、ごみを捨てて昼間のことを思い返していると、時計のハトが寝る時間を知らせたので、仕方なく、とてもがっかりした気持ちのままお布団に潜り込みました。
「こんなに外は寒いのに、鈴はどこに落ちているんだろう」
2
翌日はお正月です。
目が覚めて始めに鈴のことが思い浮かびました。
あーあ、と思いながら布団から出ると、窓の外の方でハト時計のハトが、ホッホーと鳴いている声が聞こえてきました。このハト時計はりんたくんがもっと小さい頃、遠くで仕事をしているお父さんがお土産に買ってきてくれたかわいらしい時計でした。不思議に思って窓を開けると、時計から抜け出したハトが、外の木に止まってホッホーと鳴いています。「りんたくん、空の方を見てごらん」と言っているような気がしました。
3
りんたくんは空を見上げました。
すると、お正月の新しい空の中を、一艘のふねが、どこからかゆっくりと流れてきました。
ね ね ね ね ね ね ね
ねずみが7匹乗っています。ふねの名前はねどし丸です。
りんたくんはびっくりして玄関へ走り、水色の靴を引っ掛けて急いで外へ出てみました。
4
空を流れるねどし丸。
ふねの上ではねずみたちが掛け声を掛けてふねを進めています。
ふねを漕いでいる4匹のねずみが、北の空にひとつ浮かんでいる雲を見て呟きました。
「おや?今あの雲の中で、何かがちかっと光ったねぇ」
「うん、光った光った」
先頭のねずみが望遠鏡を覗きました。
「あっ。雲に、鈴が引っかかっているよ」
そのとき、りんたくんの周りを風が通り抜けました。
雲も揺れ、リンと音が響きました。
「行ってみよう」
ねどし丸のねずみたちは、流れる雲を目指してふねを漕いで行きました。
5
りんたくんは思いました。
「ぼくが落とした鈴の音だ。昨日か今日、誰かが拾って雲の上に置いてくれたんだ」
ふねは雲に追いつきました。
たもを持ったねずみがそっと、雲の中から落ちないように上手に鈴をすくい上げ、ちりんとふねに乗せました。その鈴はとてもきれいな音がしたので、ねずみたちは代わる代わる鈴を鳴らしたがりました。
そして、鈴をふねにつけました。
お正月の空の中、透き通った音が聞こえます。りんたくんは「ねずみさん」と呼んでみようかと思いましたが、あんなに高いところを飛んでいるふねからはとてもぼくのことは見えない、と思って黙っていました。でも、大事な鈴をねずみが拾ってくれて、ふねにつけてくれて、うれしいと思いました。ふねはだんだん、遠くの空へ小さく消えていきました。
6
部屋の中からハト時計のハトの声が聞こえてきます。
りんたくんが急いでお部屋へ戻ってみると、いつの間にかハトはいつものハト時計に戻り、ちょうど朝の時間を知らせてくれているところでした。8時です。
もしかしたら、さっきの鈴も戻っているのかもしれないと思いリュックサックをよく見ましたが、やはり鈴はなくなったままでした。
お餅の匂いがしてきました。おじいさんはもう起きています。リュックサックには残されたひもだけになってしまったけれど、ひもだけ、このままつけておこうとりんたくんは思いました。またねずみがやってきて、空から鈴を鳴らしてくれるような気がしました。
(おしまい)