『星空のスケート場』
女の子のぐらぐらしていた乳歯が抜けました。
下の前歯です。
それは山の中にあるおばあちゃんの家に泊まりに行った日の夕方のことでした。石油ストーブで干し芋を炙ってしゃぶっていたら抜けてしまったのです。おばあちゃんが、
「抜けただね。ねずみの歯ぁーと代えとくれぇーって言いながら、下の歯は空に上の歯は地面の方に向かって投げるとねずみみたいな丈夫な歯が生えてくるだよ」
と女の子に教えると、女の子はやりたがり、食べかけの干し芋はひとまずそこへ置いておばあちゃんと一緒に表へ出ました。そして教えてもらった通りに口ずさむと、手の中の乳歯を空へえいっ・・・
歯はきらりと光りながら見えなくなり、屋根の上の方から、
「チウ」
と何かの声がしました。女の子がびっくりしておばあちゃんと顔を見合わせると、
「ねずみが返事をしただね」
とおばあちゃんは笑いました。
夜になりました。外は真っ暗、星はきらきらです。女の子は、こんなに暗い中で前歯は今どこにあるんだろうと思いながら、窓の外を仰ぎ見ました。歯が抜けたところを舌で触りました。
すると・・・
夜空をつーっとねずみがスケートで滑っていくのが見えました。ちょうど天の川の辺りでした。ななほしてんとうも滑っています。へびの子と、どこかの田んぼで見たかかしくんは何か喋りながら滑っています。きつねさんは下駄スケートです。
釣りをしているペンギンさんが言いました。
「おや?乳歯が釣れたずら」