『夕暮れどきのシャボン玉』
ある明け方、星が空から落ちてしまい、どうしたら空へ戻れるか、池の淵にかがんで魚に相談をしていました。
でも魚は水の中に潜っていて、もう少し寝たいと思っている最中だったので、水の上の星の声はくぐもって魚にはよく聞こえませんでした。
そこへ、ねずみがちょろちょろと、朝の散歩で通りかかりました。
星は「ネズミサン、ネズミサン」と、高いような、低いような声で繰り返しながら、ねずみのあとを追いかけました。ねずみは突然、いつもは空にいるはずの星に呼びかけられ、少し怖くもあり、一度も後ろを振り向かないまままっすぐに家に着きました。
そして、家の奥の暗がりにいる石鹸に「星がついてきた、どうしよう」と伝えました。石鹸は、ねずみが生まれるずっと前からこの家に住んでいる色々なことを知っている石鹸です。石鹸は体をひょいと伸ばして、ねずみの背後の玄関に立っている星を見ました。
ねずみのこちら側と向こう側とで、石鹸と星は、お互いを見つめ合いました。
するとパッと一緒に明るい顔をして、「やあ、どこかでお逢いした星だ、また逢いましたね」「ミオボエノアルセッケンサンダ」と家の中が急に明るくなりました。ねずみも「わぁ〜」っと晴れやかな気持ちになり、張り切ってお茶を出したり、石鹸と星の昔話を聞いたりして、とても楽しく過ごしました。
石鹸と星はいつどこで逢ったことがあるのか、それはどちらも思い出せないままでしたが夕方頃になり、星が「ソロソロ」と名残惜しそうに立ち上がりました。石鹸もねずみももっといてほしい気持ちは同じでしたが、石鹸はねずみに小川のきれいな水を汲んできてもらい、その中にチャポンと飛び込み行ったり来たりを繰り返し、シャボンの液を作りました。
近所のとりがストローを1本くれました。シャボン玉を優しく吹いてくれたのはうしです。
星はねずみや石鹸やとりやうしにお礼を言って、仲間の星が輝き始めた夕暮れの空へうれしそうに帰って行きました。