うーたんとねずみくん
昨年末、亥年の年賀状用に描いていた絵ですが、もう半年も経ってしまいましたが、描きながら漠然と浮かんでいたことを文にしました。



『うーたんとねずみくん』
1
ある日、川に浮かべたふねの上で、瓜坊のうーたんは、友達のねずみが来るのを待っていました。昨日もぐらから「流れ星さんが川を下っていったところに落ちて、そこで暮らしている」と聞いたので、友達のねずみくんと一緒に、流れ星さんとはどういうものか見に行って、何か話でも聞いてみようということになったのです。ふねにはひもが付いていて、ひもの端を丘の上に並んだ銀杏の木にくくり付けてとめてありました。
「ねずみくんはまだかな」
流れ星さんがどんなものが好きか、何を食べるかはわからないけど、もし食べるなら一緒に食べようと思い、うーたんは青いりんごをひとつ持ってきました。
2
ふねの下をおさかなの群れが通りました。
「きれいだな」
うーたんが川をのぞき込むと、おさかなたちの話し声が聞こえました。
「このふね、なんだか少しだけやわらかそうだね」
「つついてみようか」
いたずら好きなおさかなが、うーたんのふねをちょんちょんちょん。
3
あらららら。銀杏の木にくくり付けてあったひもが取れて、ふねがゆっくりと流れ出してしまいました。
「わあ、ふねが動いちゃった。どうしよう。ねずみくんがまだ来ないのに」
うーたんを乗せたふねは川を流れていきました。
4
しばらくゆらゆら下って行くと、川の上をまたぐ水色の橋が見えてきました。
橋の右側のたもとでも、左側のたもとでも、ねずみたちが遊んでいるのが見えました。その中には一緒に乗る友達のねずみくんはいないようです。うーたんが知らないねずみの子たちでした。
よく見ると、その子たちはズボンのポケットから何か粉のようなものを取り出し、橋のたもとへと撒いています。ぱらりんぱらりん。
粉に日の光が当たって、きらきらして見えました。
ふねが橋へ差し掛かると、その子たちは揃ってうーたんに手を振ってくれました。すぐにうーたんも手を振り返しました。ねずみの子の手には粉が付いていたので、手がきらきらしています。うーたんは手を振りながら、橋のたもとに何を撒いているんだろうと思いました。花の種かな。それとも何か、ねずみの秘密のおまじないのようなことをしているのかもしれない。そう考えているうちに、橋の下をくぐり抜けたふねは川を流れていきました。
「ねずみくんなら知っているかもしれない」
そう思ったとき、友達のねずみくんが向こうの木の下を、丘の上のふなのりばに向かって走っていくのが見えました。
5
「おーい、ねずみくん」
うーたんは慌てて呼びました。
「このふね動いちゃったよ」
でもねずみくんは走るのに夢中でうーたんの声には気が付きません。
「おーい、ねずみくーん」
うーたんがもう一度大きな声で呼んで手を振ると、ねずみくんはあれっ?と振り返り、こちらを見ました。
「このふね、動いちゃったよー、どうしよう」
ねずみくんは、えっと驚いて立ち止まりましたが、少し考えるとすぐにうんうんうんとうなずいて、よく通る声で言いました。
「うん、ぼく、すぐにねずみ専用ちゅうちゅうボートで追いかけるよ!うーたんは先に流れ星さんのおうちへ行って待っててね」
うーたんのふねは流れて行きます。ねずみくんはぴょんぴょん飛び上がってふねを見送ると、また元気よく駆けて行きました。
6
うーたんはゆらゆら揺れながらりんごを手にして言いました。
「ああ、よかった。ねずみくんはあとから来てくれる。でもぼく、流れ星さんのおうちを知らない、おうちまでどうやって行こう」
それを聞いていたおさかなたちが、川の中から言いました。
「うーたん、さっきはつっついちゃってごめんね。ぼくたち、流れ星さんのおうちを知っているよ」
「一緒に行こう」
のぞくと、おさかなは、男の子がたくさんと妹が一匹泳いでいます。
「私もおうちを知っているわ」
妹のおさかなが、ねずみくんがしたようにぴょんと飛び跳ねると、お兄さんの何匹かが笑いました。
それからしばらくすると、流れ星さんのおうちが見えてきました。

(おしまい)

2019/06/09 18:25 | Comments(0) | イラスト

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