1月の始めに、なんとなく思い浮かんだことを、このブログにアップしようとしたのですが、サーバーに何か不具合が生じたようで、しばらく表示されなくなっていました。
まあいいや、と思って忘れていたのですが、思い出してブログを開いてみたらありがたいことに復活しているようなので、書こうと思います。
☆☆☆☆
『鈴』
1
大晦日の夜、りんたくんは、リュックサックに付けていたとてもきれいな音がする鈴を、どこかで落としてしまったことに気がつきました。
その日はお餅屋さんのおじいさんと一緒に、町の端から端までつき立てのお餅をたくさんお届けして回ったので、その鈴をどこで落としてしまったのか、考えてみてももう見当がつきません。
背中でいつも、リンリン、と透き通った音を立てる鈴。
夜眠る前に、ふとリュックサックに入れたままにしていた昼間のごみを取り出そうとして、鈴がなくなっていることに気がついたのでした。おじいさんと出かけるときには、ちゃんと鈴は鳴っていたのに。リュックサックにひょろりと1本残されたひもを見つめながら、ごみを捨てて昼間のことを思い返していると、時計のハトが寝る時間を知らせたので、仕方なく、とてもがっかりした気持ちのままお布団に潜り込みました。
「こんなに外は寒いのに、鈴はどこに落ちているんだろう」
2
翌日はお正月です。
目が覚めて始めに鈴のことが思い浮かびました。
あーあ、と思いながら布団から出ると、窓の外の方でハト時計のハトが、ホッホーと鳴いている声が聞こえてきました。このハト時計はりんたくんがもっと小さい頃、遠くで仕事をしているお父さんがお土産に買ってきてくれたかわいらしい時計でした。不思議に思って窓を開けると、時計から抜け出したハトが、外の木に止まってホッホーと鳴いています。「りんたくん、空の方を見てごらん」と言っているような気がしました。
3
りんたくんは空を見上げました。
すると、お正月の新しい空の中を、一艘のふねが、どこからかゆっくりと流れてきました。
ね ね ね ね ね ね ね
ねずみが7匹乗っています。ふねの名前はねどし丸です。
りんたくんはびっくりして玄関へ走り、水色の靴を引っ掛けて急いで外へ出てみました。
4
空を流れるねどし丸。
ふねの上ではねずみたちが掛け声を掛けてふねを進めています。
ふねを漕いでいる4匹のねずみが、北の空にひとつ浮かんでいる雲を見て呟きました。
「おや?今あの雲の中で、何かがちかっと光ったねぇ」
「うん、光った光った」
先頭のねずみが望遠鏡を覗きました。
「あっ。雲に、鈴が引っかかっているよ」
そのとき、りんたくんの周りを風が通り抜けました。
雲も揺れ、リンと音が響きました。
「行ってみよう」
ねどし丸のねずみたちは、流れる雲を目指してふねを漕いで行きました。
5
りんたくんは思いました。
「ぼくが落とした鈴の音だ。昨日か今日、誰かが拾って雲の上に置いてくれたんだ」
ふねは雲に追いつきました。
たもを持ったねずみがそっと、雲の中から落ちないように上手に鈴をすくい上げ、ちりんとふねに乗せました。その鈴はとてもきれいな音がしたので、ねずみたちは代わる代わる鈴を鳴らしたがりました。
そして、鈴をふねにつけました。
お正月の空の中、透き通った音が聞こえます。りんたくんは「ねずみさん」と呼んでみようかと思いましたが、あんなに高いところを飛んでいるふねからはとてもぼくのことは見えない、と思って黙っていました。でも、大事な鈴をねずみが拾ってくれて、ふねにつけてくれて、うれしいと思いました。ふねはだんだん、遠くの空へ小さく消えていきました。
6
部屋の中からハト時計のハトの声が聞こえてきます。
りんたくんが急いでお部屋へ戻ってみると、いつの間にかハトはいつものハト時計に戻り、ちょうど朝の時間を知らせてくれているところでした。8時です。
もしかしたら、さっきの鈴も戻っているのかもしれないと思いリュックサックをよく見ましたが、やはり鈴はなくなったままでした。
お餅の匂いがしてきました。おじいさんはもう起きています。リュックサックには残されたひもだけになってしまったけれど、ひもだけ、このままつけておこうとりんたくんは思いました。またねずみがやってきて、空から鈴を鳴らしてくれるような気がしました。
(おしまい)
まあいいや、と思って忘れていたのですが、思い出してブログを開いてみたらありがたいことに復活しているようなので、書こうと思います。
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『鈴』
1
大晦日の夜、りんたくんは、リュックサックに付けていたとてもきれいな音がする鈴を、どこかで落としてしまったことに気がつきました。
その日はお餅屋さんのおじいさんと一緒に、町の端から端までつき立てのお餅をたくさんお届けして回ったので、その鈴をどこで落としてしまったのか、考えてみてももう見当がつきません。
背中でいつも、リンリン、と透き通った音を立てる鈴。
夜眠る前に、ふとリュックサックに入れたままにしていた昼間のごみを取り出そうとして、鈴がなくなっていることに気がついたのでした。おじいさんと出かけるときには、ちゃんと鈴は鳴っていたのに。リュックサックにひょろりと1本残されたひもを見つめながら、ごみを捨てて昼間のことを思い返していると、時計のハトが寝る時間を知らせたので、仕方なく、とてもがっかりした気持ちのままお布団に潜り込みました。
「こんなに外は寒いのに、鈴はどこに落ちているんだろう」
2
翌日はお正月です。
目が覚めて始めに鈴のことが思い浮かびました。
あーあ、と思いながら布団から出ると、窓の外の方でハト時計のハトが、ホッホーと鳴いている声が聞こえてきました。このハト時計はりんたくんがもっと小さい頃、遠くで仕事をしているお父さんがお土産に買ってきてくれたかわいらしい時計でした。不思議に思って窓を開けると、時計から抜け出したハトが、外の木に止まってホッホーと鳴いています。「りんたくん、空の方を見てごらん」と言っているような気がしました。
3
りんたくんは空を見上げました。
すると、お正月の新しい空の中を、一艘のふねが、どこからかゆっくりと流れてきました。
ね ね ね ね ね ね ね
ねずみが7匹乗っています。ふねの名前はねどし丸です。
りんたくんはびっくりして玄関へ走り、水色の靴を引っ掛けて急いで外へ出てみました。
4
空を流れるねどし丸。
ふねの上ではねずみたちが掛け声を掛けてふねを進めています。
ふねを漕いでいる4匹のねずみが、北の空にひとつ浮かんでいる雲を見て呟きました。
「おや?今あの雲の中で、何かがちかっと光ったねぇ」
「うん、光った光った」
先頭のねずみが望遠鏡を覗きました。
「あっ。雲に、鈴が引っかかっているよ」
そのとき、りんたくんの周りを風が通り抜けました。
雲も揺れ、リンと音が響きました。
「行ってみよう」
ねどし丸のねずみたちは、流れる雲を目指してふねを漕いで行きました。
5
りんたくんは思いました。
「ぼくが落とした鈴の音だ。昨日か今日、誰かが拾って雲の上に置いてくれたんだ」
ふねは雲に追いつきました。
たもを持ったねずみがそっと、雲の中から落ちないように上手に鈴をすくい上げ、ちりんとふねに乗せました。その鈴はとてもきれいな音がしたので、ねずみたちは代わる代わる鈴を鳴らしたがりました。
そして、鈴をふねにつけました。
お正月の空の中、透き通った音が聞こえます。りんたくんは「ねずみさん」と呼んでみようかと思いましたが、あんなに高いところを飛んでいるふねからはとてもぼくのことは見えない、と思って黙っていました。でも、大事な鈴をねずみが拾ってくれて、ふねにつけてくれて、うれしいと思いました。ふねはだんだん、遠くの空へ小さく消えていきました。
6
部屋の中からハト時計のハトの声が聞こえてきます。
りんたくんが急いでお部屋へ戻ってみると、いつの間にかハトはいつものハト時計に戻り、ちょうど朝の時間を知らせてくれているところでした。8時です。
もしかしたら、さっきの鈴も戻っているのかもしれないと思いリュックサックをよく見ましたが、やはり鈴はなくなったままでした。
お餅の匂いがしてきました。おじいさんはもう起きています。リュックサックには残されたひもだけになってしまったけれど、ひもだけ、このままつけておこうとりんたくんは思いました。またねずみがやってきて、空から鈴を鳴らしてくれるような気がしました。
(おしまい)